
米国税関、関税逃れの摘発が過去最大10億ドル超──EAPA制度10年で初。手口は『第三国での積替え・誤分類・過少申告』、原産地の裏取りが本格化
米国税関・国境警備局(CBP)は2026年7月29日、関税逃れの取締り制度EAPA(Enforce and Protect Act/関税逃れ取締法)にもとづく調査で、10億ドルを超える追加関税の未納を認定したと発表しました。10億ドル超はこの制度が始まって10年で初めてで、制度の年平均のおよそ4倍(+300%)にあたります。
まず、落ち着いて読んでいただくための結論から。EAPAはアンチダンピング税・相殺関税(AD/CVD)の逃れを取り締まる制度で、今回名指しされたのも太陽電池・木材・パイプ・金属ロッカー・木製家具・キサンタンガムといった品目です。日本製の食品・化粧品・雑貨・ホビーを送っている読者のみなさんの主力商品が、この制度で直接摘発される可能性は高くありません。
それでも取り上げるのは、摘発された手口が「第三国での積替え・誤分類・過少申告」——どれも“原産地を実際とは違う国に見せる”やり方だからです。しかもCBPは今回、書類を審査するだけでなくメキシコ・タイ・インド・ニュージーランド・英国の製造現場まで調査官を送り込んでいます。原産地の裏取りが、書類確認から現場確認の段階に入った、ということです。
そして、ここが本題です。2026年7月24日から、日本の輸出者にとって原産地は「気をつける項目」ではなく「税率そのもの」になりました。原産地が日本か中国かで、同じ商品でも米国での税率の決まり方が変わります。つまり原産地をきちんと押さえている事業者ほど有利になる——正規に日本から出していることが、はじめて価格競争力として効いてくる局面です。
何が発表されたか──過去最大の10億ドル超、現場まで見に行く執行へ
EAPAは2016年の貿易円滑化・貿易執行法(TFTEA)で創設された制度で、米国に輸入される貨物についてAD/CVD(アンチダンピング税・相殺関税)の支払いを逃れる行為をCBPが調査し、止めるためのものです。今回が制度10年目にあたります。
CBPが取り締まる手口として挙げているのは次の3つです。いずれも「本当は課税対象なのに、そう見えないようにする」という一点で共通しています。
- 違法な積替え(illegal transshipment)——課税対象国から出た貨物を第三国に立ち寄らせ、その第三国が原産地であるかのように装う
- 誤分類(misclassification)——課税対象ではない別のHTSコードで申告する
- 過少申告(undervaluation)——課税標準になる申告価格を実際より低く申告する
2026年にCBPが出した違反認定の通知は14件。対象品目は太陽電池、牽引式の芝生整備機、木材、パイプ、キサンタンガム、金属ロッカー、木製家具など、国・品目ともに幅広く分布しています。
執行の姿勢として注目したいのは、調査官が実際に海外の製造現場へ足を運んでいる点です。CBPはメキシコ・タイ・インド・ニュージーランド・英国の生産施設を訪ね、申告どおりの事業者が、申告どおりの場所で本当に作っているのかを確認しています。書類が整っていることと、実態がそのとおりであることは別だ——という前提に立った執行です。
具体的な調査の一例として、CBPは2026年4月6日、中国製の低速電動車両とその部品について、ベトナム経由の積替えと誤分類の疑いがあるとして調査の開始と暫定措置を通知しています(EAPA案件8247)。暫定措置は最終判断を待たずに通関を止めたり追加の担保を求めたりできるもので、「クロと決まってから」ではなく「疑いの段階から」荷物が動かなくなるのがEAPAの特徴です。
EAPAの対象はあくまでAD/CVD命令が出ている品目です。ご自身の商品がAD/CVDの対象かどうかは、原産国と10桁のHTSコードの組合せで決まります。
なぜ日本のセラーに関係があるのか──「日本から送る=日本原産」ではない
ここが今回いちばんお伝えしたい点です。米国の原産地は「どこから送ったか」ではなく「その商品が実質的にどこで作られたか」で決まります。発送元の国ではありません。
この違いが効いてくるのは、たとえば次のようなケースです。
- 中国の工場にOEM生産を委託した自社ブランド品を、いったん日本の倉庫に入れてから米国へ送っている
- 海外製の完成品を日本の問屋で仕入れて、米国のFBA倉庫へ納品している
- 海外製の部材を日本で組み立て・詰め合わせ・再包装してから輸出している
いずれも日本から発送していますが、それだけでは原産地は日本になりません。原産地が変わるのは、日本での加工によって「実質的変更(substantial transformation)」=名称・特性・用途が別の物品になったと認められる場合だけです。小分け・再包装・ラベル貼り・詰め合わせ・簡単な組立てでは、原則として原産地は変わりません(判定軸の詳細は原産地規則『実質的変更』の解説をご覧ください)。
これは新しいルールではありません。新しいのは「守らなかったときに何が起きるか」の実測値が出てきたことと、この判定が直接お金に効くようになったこと(次のセクション)の2つです。
| ケース | 米国での原産地 |
|---|---|
| 日本の工場で作った商品を日本から発送 | 日本 |
| 中国でOEM生産した商品を日本の倉庫経由で発送 | 中国(日本を経由しても変わらない) |
| 海外製の完成品を日本で小分け・再包装・ラベル貼り | 元の製造国のまま(原則、実質的変更にあたらない) |
| 海外製の部材を日本で加工し、名称・特性・用途が別の物品になった | 日本と認められうる(判定は品目ごと) |
「仕入先が日本の会社だから日本原産」ではありません。判定の対象は取引の相手ではなく、商品そのものの製造の実態です。
原産地が『税率そのもの』になった──2026年7月24日からの計算方式
2026年7月24日、米国の追加関税の法的な根拠が通商法Section 301(強制労働産品への輸入禁止措置が不十分であることを理由とするもの)に切り替わりました。直前まで適用されていたSection 122にもとづく一律10%の上乗せは、同日で失効しています。
ここで重要なのは、日本と、中国など多数の国とで、税率の決まり方そのものが違うことです。JETROおよびUSTRの公表内容によると、日本は「MFN(通常の関税率)との合計が12.5%になるように調整する」方式で、MFNが12.5%以上の品目にはSection 301分が上乗せされません。一方、中国やベトナムなど多数の国は「MFNに12.5%をそのまま上乗せする」方式です。さらにAD/CVDや従来からの対中Section 301は、これとは別枠で上乗せされます。
つまり、同じ商品を同じ日本の倉庫から送っても、原産地が日本か中国かで米国に着いたときのコストの決まり方が変わるということです。原産地はもはや通関書類の一項目ではなく、採算に直結する変数になりました。
そして、その原産地の申告が正しいかどうかを、CBPが10億ドル規模で・現場まで見に行って確かめにきている。これが今回のニュースと、みなさんの商売がつながる線です。
裏を返せば、これは日本発の事業者にとって追い風でもあります。第三国を経由して原産地を曖昧にする売り方が高くつくようになるほど、日本で作られた商品を、日本原産として正面から通している事業者の相対的な立ち位置は上がります。日本製であることを、これまでは品質の話として語ってきたかもしれません。これからはコスト構造の話としても語れるようになります。
| 原産地 | Section 301(2026/7/24〜)の決まり方 |
|---|---|
| 日本 | MFNとの合計が12.5%になるよう調整(MFNが12.5%以上なら上乗せなし) |
| 中国・ベトナムなど | MFNに12.5%を上乗せ(+従来の対中301・AD/CVDは別枠) |
| 232条の対象品目(鉄鋼・アルミ・銅・木材・自動車など) | Section 301の対象外。232条の税率が適用される |
税率の判定は品目名ではなく10桁のHTSコード単位でしか出せません。「日本は12.5%」と単一の数字で覚えるのは誤りです。除外リストに載っている品目や232条の対象品目では、まったく違う答えになります。
要件はシンプル。難所は2つ
ここまでを整理すると、求められていること自体は複雑ではありません。自分が売っている商品の原産地を、実態どおりに把握して、実態どおりに申告する。それだけです。
難しいのは、次の2点です。
難所①:原産地を「仕入先の言い分」ではなく「製造の実態」で押さえること。仕入先の資料に書かれた原産国が、必ずしも米国の基準での原産地と一致するとは限りません。部材の調達国、どの工程をどこで行ったか、その工程が実質的変更にあたるか——判定に必要な情報は、商流の1つ上流にあることが多く、「聞けば分かる」形になっていないことがほとんどです。
難所②:その根拠を、後から求められたときに出せる形で持っておくこと。CBPは通関後にも情報提供の要請(CF28など)を出します。そのときに原産地をどう判断したのかを説明できる材料が手元に無いと、実態としては正しくても、申告を維持するのが難しくなります。EAPAの暫定措置のように、結論が出る前に荷物が止まる仕組みがある以上、「聞かれてから探す」では間に合いません。
当社(WorldShift)は発送代行の中で、原産国表示・原産地の整理、HTSコードの分類・確定、CROSS(CBPの裁定データベース)での類似裁定の調査、インボイスの作成・品名の最適化を行っています。税関から追加の情報や資料を求められたときの必要書類のご案内と提出のサポートも含みます。上の2つの難所は、ここが日常業務になっている側と一緒にやるのがいちばん早い部分です。
なお、事前教示(binding ruling)の申請の代行は当社では承っておりません。この制度は輸入者・輸出者など直接かつ立証可能な利害を持つ者、またはその授権代理人がCBPに申請できるもので(19 CFR 177.1(c))、日本の輸出者ご自身で申請いただけます。判断が割れやすい品目で確実性を取りにいく手段として、選択肢に入れておく価値があります。
この記事は制度と論点の整理です。個別の商品の原産地判定は、部材構成と加工内容によって結論が変わります。
原産地の確認は「仕入先に原産国を聞く」だけで終わらせず、<どの部材をどこから調達し、どの工程を日本で行ったか>まで文章にして残してください。米国の原産地は工程で決まるため、原産国の一言だけでは後から根拠を再現できません。商品が増えてからまとめてやろうとすると、当時の仕入担当も資料も残っておらず手が止まります。
よくある質問
- 実質的変更(substantial transformation):加工によって、名称・特性・用途のいずれもが別の物品になったと認められること。米国で原産地が変わるかどうかの基本的な判断軸。
- 暫定措置(interim measures):EAPA調査でCBPが「合理的な疑い」を認めた段階で取れる措置。最終判断を待たずに通関を止めたり、追加の担保を求めたりできる。
- CF28(情報提供の要請):CBPが輸入者に対し、申告内容の裏づけとなる情報・資料の提出を求める書式。
- CROSS:CBPが過去に出した裁定を検索できる公開データベース。自分の商品に近い事例の分類・原産地の考え方を調べられる。
原産地の管理は、後から追いかけると大変ですが、最初に一度整理してしまえば以降は運用の話になります。当社(WorldShift)は発送代行の中で、原産国表示・原産地の整理、HTSコードの分類・確定、CROSSでの類似裁定の調査、インボイスの作成・品名の最適化を行っています。税関から追加の情報・資料を求められたときの必要書類のご案内と提出のサポートも承ります。なお事前教示(binding ruling)の申請の代行は当社では承っておりません(輸出者ご自身で申請できる制度です)。

