
米国で『編み物・手芸』が再燃、日本の毛糸・道具に輸出の商機──Etsyでかぎ針編み衣類の売上+36%、Z世代が牽引
米国で「手で編む・手で縫う」が、静かに、しかし確実に戻っています。牽引しているのはZ世代(Gen Z)。Etsyが公式に出した2026年 春夏のセラー向けトレンドレポートは、この動きを「Soft Stitch Era(ソフト・ステッチの時代)」と名付けました。
数字が出ています。かぎ針編みの衣類は売上が前年比36%増、刺繍入りストローバッグにいたっては検索が前年比20,000%超という跳ね方です。
Etsyはその理由を、Z世代が「AIがつくった均質さ」と「大量生産」に反発しているからだと説明しています。人の手が入ったことが分かるものを、彼らは選んで買っています。
ここに日本の出番があります。日本の毛糸や編み物道具は、軽くて・常温で・壊れにくく、しかもウール毛糸なら輸入の許可も免許も要りません。小さく始めるには、条件がそろっています。
① 何が起きているか──Etsyが名付けた「Soft Stitch Era」とは
Etsyの公式トレンドレポート(2026年 春夏)は、この動きを「Soft Stitch Era」と呼びました。刺繍・かぎ針編み・手ざわりのある布——手仕事の跡が見えるものが、日常のファッションに戻ってきているという指摘です。
特徴は「作られたもの」と「作ること」の両方が伸びている点です。完成品(かぎ針編みの衣類)の売上が伸びているだけでなく、同じレポートの別のトレンド枠(World of Whimsy)では初心者向けニードルポイントキットの検索が175%増と報告されています(ニードルポイント=キャンバス地に毛糸で刺していく手芸)。つまり「買う人」だけでなく「編む人・刺す人」自体が増えているということです。ここが、材料や道具を売る側にとって決定的に重要です。
Etsy『Seller Trend Report: Spring and Summer 2026』より、いずれも検索数の前年比。棒の長さは伸び率に比例していません(20,000%超が突出しているため)。完成品の売上は別の指標で、かぎ針編み衣類が+36%です。ニードルポイントキットの175%は同レポートの別トレンド枠(World of Whimsy)の数値。
② 市場としての大きさ──毛糸だけで年間十数億ドル
流行りものに見えて、土台の市場はしっかりしています。米国の毛糸玉(knitting yarn ball)の小売市場は、2022年に約12億5,720万ドル。これが2030年には約17億2,320万ドルに達すると予測されています(1ドル≒161円なら、およそ2,024億円→2,774億円)。
もともと編み物・かぎ針編みは米国で数千万人規模の裾野をもつ趣味です(業界団体のCraft Yarn Councilが10年以上前から継続的に調査を出しています)。厚い土台の上に、Z世代という新しい層が乗った——いま起きているのはそういう構造変化です。
③ ここが要点:日本の毛糸も道具も「もう米国に入っている」。空いているのはブランドではなく組み合わせ
正直に書きます。「日本ブランドだから米国に無い」は、この分野では成り立ちません。
- Noro(野呂英作)…米国ではKnitting Fever社(KFI)がディストリビューターとして全米の毛糸専門店に流しています(同社サイトで取扱ブランドとして公表)
- 竹の編み針…クロバーの米国法人 Clover Needlecraft, Inc.(Clover USA)が1983年にロサンゼルスで設立され、最初に売った商品がまさに竹製の「Takumi」編み針です。すでに米国の定番棚にあります
- ダルマ(横田・1901年創業)…ポートランドのAmirisu Kurumiなど、米国の毛糸店が取扱いを始めています
「まだ誰も持ち込んでいない日本ブランドを探す」という発想は、ここでは外れます。では何が空いているのか。「組み合わせ」と「日本側にしかない選択肢」です。
- スターターキット…毛糸+かぎ針+編み図を1箱にまとめたもの。Etsyで初心者向けキットの検索が伸びている動きと、まっすぐ噛み合います
- 日本限定の色番・数量セット…同じブランドでも、米国の棚に無い色番や、5玉・10玉のまとめ売り
- 日本の編み図・パターン本…日本の編み図は「記号図」で言語に依存しにくく、英訳の凡例を添えると価値が立ちます
- 和のモチーフの手芸キット…金継ぎキットが実際に売れている前例があります(金継ぎキットの記事)
なぜ「単品」ではなく「セット」なのか。ここが採算の分かれ目です。FBAの配送料は、商品の値段に関係なくほぼ一定の額がかかります。つまり売価が低い商品ほど、手数料が利益を食う比率が跳ね上がる。かぎ針1本を単品で送るのと、キット1箱を送るのとで、かかる配送料はさほど変わらないのに、売価は数倍にできます。「軽いから送料が安い」は国際輸送の話であって、FBAの手数料まで含めると、低単価の単品はむしろ不利です(2026年の手数料はこちら)。
もうひとつ、始める前に必ず確認してほしいこと。他社ブランドの商品を米国で販売する場合は、そのブランドが米国で商標登録をしているか、販売代理店を置いているかを、ブランド元への確認とUSPTOの商標検索(TSDR)でご自身で確かめてください。真正品の並行輸入そのものは原則として可能ですが、Amazonでは権利者からの申し立てによって出品が止まることがあります。
④ 送るときの要点──許可は要らない。ただし「関税」「繊維表示」「竹の申告」の3つ
いい知らせから。ウールもウール毛糸も、米国へ輸入するのに許可(permit)や免許(license)は要りません。(例外は血液が付着したウールで、これはAPHIS=米農務省の動植物検疫局が認可した施設あてに送る必要があります。通常の製品としての毛糸には関係しません。)軽くて常温、割れず、電池も入らない——輸送そのものは通しやすい商材です。
そのうえで、原価に効く論点が3つあります。
(1) 関税は「合計12.5%」になります。2026年7月24日からの新しい制度で、日本原産品は通常関税と合わせて12.5%が基準です(通常関税が12.5%以上の品目はそのまま)。毛糸も編み図の本も、免除リストには入っていません。とくに本は通常関税が0%なので、そのぶん12.5%が丸ごと乗る形になります。「軽いから安い」と原価計算から関税を落とさないでください(12.5%の仕組みはこちら)。
(2) 繊維製品には表示規則がかかります。米国ではFTC(連邦取引委員会)の繊維製品識別法=TFPIA(ウール製品はウール製品表示法=WPLA)で、主に次の3つが求められます。
- 繊維の組成…一般名(generic name)と重量%を、多い順に記載。5%未満の繊維は原則「other fiber(s)」としてまとめて開示(機能上の意義が明確な繊維は名称表示ができます)
- 原産国…日本製なら「Made in Japan」
- 製造者または販売者の識別…社名、またはFTCに登録したRN番号
日本の毛糸は玉のラベル(band)に組成が入っているのが普通なので、ゼロから作るのではなく「英語で・必要項目がそろっているか」を確認する作業になります。今治タオルや風呂敷でも同じ論点を扱っています(今治タオルの繊維表示/風呂敷・手ぬぐいの繊維表示)。
(3) 竹・木の道具は「植物の申告」を確認してください。竹製のかぎ針や輪針は繊維製品ではないので(2)の対象外ですが、代わりにレイシー法(Lacey Act)の植物申告の論点が立ちます。米国は2024年12月から対象を広げており、竹・籐の製品も申告対象のHTSに入りました。商業目的で植えられた竹であれば免除されますが、免除に当たるかどうかはHTSコードごとの確認が必要です(レイシー法の電子申告はこちら)。当社(WorldShift)ではこの申告も含めて代行しています。
関税・表示規則・レイシー法の細目は制度改正で変わります。実際の判定はHTSコード単位で行われるため、最新の規定と個別の品目でご確認ください。
⑤ いつ動くか──編み物は秋冬。逆算するといまが仕込み時
編み物は秋から冬にかけてが本番の趣味です。涼しくなってから毛糸を買い、年末に向けて編む——つまり米国側の需要が立ち上がるのは9月以降。
そこから逆算すると、いま8月に仕込むのがちょうど良いタイミングです。米国Amazonの年末商戦の在庫締切も出そろっており、Prime Big Deal Days向けは9月16日、ブラックフライデー・サイバーマンデー向けは10月28日が着荷の期限です(Q4の締切カレンダーはこちら)。日本から送る日数を差し引けば、動き出す日は自然に決まります。
最初の1本は「単品」ではなく「毛糸+道具+編み図のスターターキット」から入るのが堅い選び方です。理由は、FBAの配送料が商品の値段に関係なくほぼ一定の額かかるから——かぎ針1本($6前後)でもキット1箱($25〜40)でも、かかる配送料はさほど変わりません。つまり単価が低いほど手数料に利益を食われます。Etsyで初心者向けキットの検索が伸びている動きとも噛み合うので、訴求としても強い。なお竹の道具を入れる場合は、繊維表示(TFPIA/WPLA)の対象外になる代わりにレイシー法の植物申告の確認が要ります(商業栽培の竹なら免除。当社が申告まで代行します)。
よくある質問
- TFPIA(繊維製品識別法):米国で繊維製品に組成・原産国・事業者表示を義務づけるFTCの法律。
- WPLA(ウール製品表示法):ウール製品を対象とする米国の表示法。TFPIAと並ぶ。
- RN番号:FTCに登録すると与えられる事業者の識別番号。社名の代わりにラベルへ記載できる。
- APHIS:米農務省の動植物検疫局。動物由来品の輸入を所管する。通常の毛糸製品は許可不要。
「関税12.5%」「繊維表示」「レイシー法」と並ぶと身構えてしまいますが、やることは決まっています——ラベルに組成を多い順に英語で書く、Made in Japanを入れる、事業者名(またはRN番号)を入れる。日本の毛糸はもともとラベルに組成が入っているので、ゼロから作る作業ではありません。関税の計算も、竹製品の植物申告も、まとめ輸入・通関・FBA納品と一緒に当社(WorldShift)の発送代行(SLC)が引き受けます。あなたは「どの組み合わせで売るか」に集中してください。
- Etsy『Seller Trend Report: Spring and Summer 2026』(Soft Stitch Era・+36%/+175%)
- Grand View Research:米国の毛糸玉小売市場(2022年12億5,720万ドル→2030年17億2,320万ドル)
- Craft Yarn Council(編み物・かぎ針編みの消費者調査)
- FTC『Threading Your Way Through the Labeling Requirements Under the Textile and Wool Acts』(繊維表示)
- Knitting Fever(Noroの米国での取扱い)
- Clover Needlecraft, Inc.(クロバー米国法人・1983年ロサンゼルス設立)
- CBP:Section 301 強制労働関税のガイダンス(日本原産品は合計12.5%)

