米FDA、化粧品の強制リコール指針を確定 命令はラベル記載の事業者へ
MoCRAで導入された回収命令の運用を明確化。まず自主回収の機会、条件は2つ

米食品医薬品局(FDA)は10月22日、化粧品の強制リコール(回収命令)の運用について、問答形式でまとめた最終指針「Questions and Answers Regarding Mandatory Cosmetics Recalls」を公表した。命令の相手は、化粧品のラベルに名前が載っている製造業者・包装業者・販売業者で、FDAはまず自主的に回収する機会を書面で知らせるとしている。
強制リコールの権限は、2022年12月に成立した化粧品規制近代化法(MoCRA)が、連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C法)に611条として加えたもの。指針は2025年12月18日に公表した案を最終化したもので、連邦官報は10月23日に公表を告示した。案には7件の意見が寄せられたが、実質的な変更はないという。
FDAは指針で、化粧品の回収はこれまで多くが自主回収で行われてきたとし、「違反のある化粧品の多くは、これからも自主回収されると見込んでいる」と記した。指針はFDAの現在の考え方を示すもので、それ自体に法的な拘束力はない。
命令の相手は「ラベルに名前のある事業者」
指針は、命令を受ける「責任者(responsible person)」を、FD&C法604条の定義どおり、化粧品のラベルに名前が載っている製造業者・包装業者・販売業者と説明した。日本から出す化粧品では、英語ラベルに載るのが日本のメーカーか、米国の販売業者・輸入者かによって、FDAの知らせや命令を受け取る相手が変わることになる。
対象は、FD&C法の「化粧品」の定義に当たるものすべて。定義には「石けんは含まない」とある。化粧品であると同時に医薬品や医療機器にも当たる商品は611条の対象外だが、別の強制リコールの権限の対象になり得るとした。SPFを表示する日焼け止めは、米国ではOTC医薬品として扱われる。
条件は2つ、先に自主回収の機会
FDAが権限を使うには、①その化粧品が不良品(adulterated)または不当表示(misbranded)である合理的なおそれと、②使用や接触によって重篤な健康被害または死亡を招く合理的なおそれ、の両方がそろっているとFDAが判断する必要がある。手続きは次の順に進む。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 自主回収の機会 | 2つの条件がそろうとFDAが判断すると、責任者に自主的に販売を止め、回収する機会を書面で知らせる |
| 販売停止の命令 | FDAが期限や方法を示した場合はそのとおりに、責任者が自主的に止めない・回収しないとき、FDAは直ちに販売を止めるよう命令できる |
| 非公式の聴聞 | 命令を受けた責任者は、命令が十分な証拠に支えられているかを争う機会を得る。開かれる場合は命令の日から10日以内 |
| 命令の行方 | FDAは命令を取り消すか、販売停止を指定日まで続けるか、回収を求める命令に改める |
| 通知と公表 | FDAは必要なら、その商品を製造・流通・輸入・販売する者と一般への通知を責任者に求める。回収命令に改めた場合はプレスリリースを出し、可能なら商品の画像をFDAのウェブサイトに載せる |
回収を命じる・取り消す権限は、FDA長官より下の職員に任せることはできない(611条(g))。命令に従わないことは禁止行為に当たり、差止めや刑事訴追の対象になり得る(指針の問16)。611条は、FDAのほかの規定による停止・回収の命令には影響しないと定めている(611条(h))。
判断材料に「苦情」と「有害事象」
1つ目の条件の中身として、指針は不良品・不当表示に当たる例を挙げた。有害な物質を含む、安全でない色素を含む、不衛生な状態で製造・保管された、製品と成分の安全性の十分な裏付け(608条)がない、ラベルが虚偽や誤解を招く、事業者の名前と所在地・正確な内容量・609条が求める情報が載っていない、などだ。
FDAが判断に使う材料としては、施設の査察での指摘、サンプルの分析結果、被害の発生を示すデータ、使う人の弱さ(乳幼児・高齢者・妊娠中の人など)、重篤な有害事象のデータ、消費者や取引先からの苦情、責任者が自主回収に応じたかどうか、を挙げた。重篤な健康被害については、604条の「重篤な有害事象」の定義(死亡、入院、著しい外見の損傷など)を引き、これらのうちどれが当たるかは状況と手元の証拠によるとした。
ラベルの連絡先と報告の義務は、すでに効いている
判断材料となる有害事象の情報を集める仕組みは、MoCRAですでに動いている。化粧品のラベルには、責任者が有害事象の報告を受け取れる米国内の住所、米国内の電話番号、または電子の連絡先(ウェブサイトでもよい)を載せる必要がある(609条)。責任者は、米国内での使用による重篤な有害事象の報告を受け取ってから15営業日以内に、ラベルの写しを添えてFDAに報告し、関連の記録を原則6年保管しなければならない(605条)。
一方、米国での化粧品の年間売上が過去3年平均で100万ドル(約1億6,000万円、1ドル=160円で換算・物価調整あり)未満の小規模事業者は、施設登録・製品リスティングと製造管理(GMP)の義務を外れる(612条)。ただし、目の粘膜にふだん触れるもの、注射するもの、体の中で使うもの、落とさずに24時間を超えて見た目を変えるものを製造・加工する場合は外れない。ラベルの連絡先と有害事象の報告は、規模にかかわらず求められる。
「最後の手段」の手順が見えた。備えはラベルから
指針を通して読むと、強制リコールは自主回収が進まないときの最後の手段として置かれている。FDAはまず書面で自主回収の機会を知らせ、命令には10日以内の聴聞の機会がつく。同時に、FDAが判断に使う材料(苦情・有害事象のデータ・査察やサンプルの結果)と、命令が届く相手(ラベルに名前のある責任者)が文書で示されたことで、米国に化粧品を出す側が何をそろえればよいかははっきりした。
輸出の準備に落とすと、順番はおおむね次のようになる。
- 化粧品か、医薬品にも当たるかを分ける(SPFを表示する日焼け止めなどは別の手続きになる。最終的に決めるのはFDA)
- 英語ラベルに載せる責任者を決める。自社ブランドなら誰にするかを決め、仕入れて売るならメーカーのラベルの名前と米国内の連絡先をまず確かめる。自社の名前を販売業者として載せれば、自社が責任者になる
- 英語ラベルに、責任者の名前と所在地、内容量、成分、米国内の連絡先を載せる
- 施設登録・製品リスティングが要るかを確かめ、要るなら済ませる
- 安全性の資料と、有害事象の受付・15営業日以内の報告の手順を用意する
- ロットと出荷先の記録を残し、インボイス・HTS分類・原産地を整えて米国へ送る
米国では日本の化粧品への関心が続いている(米国で日本コスメが再加速)。強制リコールが「最後の手段」として置かれている以上、ラベルと記録を販売前に整えておくことが、米国で売り広げる土台になる。ただし、個別の商品が不良品・不当表示に当たるか、回収の対象になるかを判断するのはFDAで、準備をそろえても回収を避けられると約束されるわけではない。
(ワールドシフト編集部)
キーワード解説
- 強制リコール(mandatory recall):FDAが命令によって化粧品の販売停止・回収を求める仕組み。MoCRAがFD&C法611条として加えた。
- 責任者(responsible person):化粧品のラベルに名前が載っている製造業者・包装業者・販売業者(FD&C法604条)。
- 不良品(adulterated):有害な物質を含む、不衛生な状態で作られた、安全でない色素を含む、安全性の裏付けがないなど、FD&C法601条に当たる化粧品。
- 不当表示(misbranded):ラベルが虚偽・誤解を招く、必要な表示がないなど、FD&C法602条に当たる化粧品。
- 重篤な有害事象:死亡、命にかかわる経験、入院、続く障害、著しい外見の損傷などにつながる有害事象(FD&C法604条)。
- 非公式の聴聞(informal hearing):販売停止の命令を受けた責任者が、命令の根拠を争える場。開かれる場合は命令の日から10日以内。
Q&A:よくある質問
- 米国の化粧品の強制リコールとは何ですか?
- MoCRA(2022年12月29日成立)がFD&C法に加えた611条で、FDAが化粧品の責任者に販売の停止と回収を命じられる権限です。FDAは2026年10月22日に、その運用についての最終指針を公表しました。FDAは、違反のある化粧品の多くはこれからも自主回収されると見込んでいるとしています。
- 米国FDAの化粧品の強制リコール(MoCRA)の命令は、誰に届きますか?
- 米国FDAの化粧品の強制リコール(FD&C法611条)の命令は、化粧品のラベルに名前が載っている製造業者・包装業者・販売業者(FD&C法604条の「責任者」)に届きます。日本から出す化粧品では、英語ラベルに載っているのが日本のメーカーか米国の販売業者・輸入者かで、知らせや命令を受け取る相手が変わります。
- 米国FDAの化粧品の強制リコールは、どんなときに命じられますか?
- FDAが、①その化粧品が不良品または不当表示である合理的なおそれ、②使う・触れることで重篤な健康被害または死亡を招く合理的なおそれ、の2つが両方そろっていると判断したときです。その場合もFDAはまず、責任者に自主的に販売を止めて回収する機会を書面で知らせます。責任者が応じないとき、販売停止の命令が出ることがあります。
- 米国FDAの化粧品の強制リコールで命令を受けたら、反論の機会はありますか?
- あります。販売停止の命令を受けた責任者には、命令が十分な証拠に支えられているかを争う非公式の聴聞の機会が与えられ、開かれる場合は命令の日から10日以内です。FDAはそのあと、命令を取り消すか、販売停止を指定日まで続けるか、回収を求める命令に改めるかを決めます。
- 日焼け止めや薬用化粧品も、MoCRAの化粧品強制リコール(611条)の対象ですか?
- 化粧品であると同時に医薬品または医療機器でもある商品は、611条の対象外です。ただし指針は、それらが別の強制リコールの権限の対象になることがあるとしています。SPFを表示する日焼け止めは、米国ではOTC医薬品として扱われます。日本の「薬用化粧品(医薬部外品)」が米国で医薬品に当たるかは、表示する効能などで決まり、日本の区分とは一致しません。どちらに当たるかを最終的に判断するのはFDAです。
- 2026年10月22日のFDAの化粧品強制リコール指針で、日本の化粧品の事業者に新しい義務が増えましたか?
- 指針は新しい義務を足すものではなく、611条の権限をFDAがどう使うかを説明したものです。2025年12月18日の案から実質的な変更もありません。ただし、ラベルに米国内の連絡先を載せること(609条)や、重篤な有害事象を15営業日以内にFDAへ報告すること(605条)など、MoCRAの義務はすでに法律に入っています。
- 小さな事業者も、MoCRAの施設登録・製品リスティングが要りますか?
- 米国での化粧品の年間売上が過去3年平均で100万ドル(物価調整あり)未満の小規模事業者には、施設登録・製品リスティングと製造管理(GMP)の義務を外す規定があります(FD&C法612条)。ただし、目の粘膜にふだん触れるもの・注射するもの・体の中で使うもの・落とさずに24時間を超えて見た目を変えるものを製造・加工する場合は外れません。ラベルの米国内の連絡先(609条)と、重篤な有害事象の15営業日以内の報告(605条)は、規模にかかわらず必要です。免除に当たるかは、条文とFDAの公表資料、専門家にご確認ください。
- 米国FDAの化粧品の強制リコールに備えて、何をそろえておけばいいですか?
- 指針と条文から逆算すると、主なものは①英語ラベルに載せる責任者の名前と所在地、②有害事象を受け付ける米国内の住所・電話番号または電子の連絡先、③製品と成分の安全性の裏付けの資料、④有害事象の受付と15営業日以内の報告の手順、⑤ロットと出荷先の記録、の5つです(商品によってはこれだけでは足りないこともあります)。
- 米国の化粧品の強制リコールと自主回収の違いは何ですか?
- 自主回収は事業者が自分の判断で回収するもので、FDAの回収の規則(21 CFR part 7)に沿って行われてきました。強制リコールは、MoCRAがFD&C法611条に加えた、FDAが販売停止と回収を命令できる権限です。FDAはまず書面で自主回収の機会を知らせ、責任者が応じないときに命令を出します。
- Questions and Answers Regarding Mandatory Cosmetics Recalls: Guidance for Industry(U.S. FDA・2026年10月・PDF)
- FDA Guidance Documents『Questions and Answers Regarding Mandatory Cosmetics Recalls: Guidance for Industry』(U.S. FDA)
- FDA Issues Final Guidance on Mandatory Cosmetic Recalls(U.S. FDA 化粧品ニュース・2026年10月22日)
- 連邦官報 91 FR 66851(2026年10月23日・FR Doc 2026-21679)
- 21 U.S. Code §364g — Mandatory recall authority(FD&C法611条・Cornell LII)
- 21 U.S. Code §364a — Adverse events(FD&C法605条・Cornell LII)
- 21 U.S. Code §364e — Labeling(FD&C法609条・Cornell LII)
- 21 U.S. Code §364h — Small businesses(FD&C法612条・Cornell LII)
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